「待つこと」で生まれるものがある
新井えり氏に学ぶビジネスを輝かせるためのヒント・・・
「お塩を甘くする秘訣」があります。
その「秘密」があるのは、三十年ものの梅干しの甕の中です。
甕を開けると、化石のようになった梅干のまわりに、透き通った大きな塩の結晶がたくさんついています。
塩の結晶は、まろやかでとてもいい味です。
辛いというより、甘いのです。
塩のとげとげしさがありません。
ずっと大切にしまっておいたら、お塩が自然に甘くなりました。
溶けた塩がもう一度結晶した、と言ってしまえば簡単ですが、長い年月が過ぎ去る間に、甕の中では、もっと複雑で神秘的なことが起きていたような感じがします。
天日に干して、甕に漬けこむまでは人間の仕事。
でも、その後はみんな、知らない間に「時」がやってくれたことです。
人間と時間の関係について考えることがあります。
人間一人一人に与えられているのは「限りある時」です。
いつまで続くのか、誰も知りません。
短い一生で終わってしまう人もいます。
でも、歴史を振り返ってみると、過去から現在まで、人間はいつも、自分の目の前にある「有限の時」の向こうに、「悠久の時」を見つめていたことがわかります。
「時」とは永遠に続いてゆくもの。
その中で、気長に忍耐強く仕事をしてゆきます。
急がずに、結果が出るのをいつもゆっくり待つ。
待つことでしか手に入れられないものが、この世にはたくさんある。
それを知っているから、人間はしばしば、自分自身の時間には限りがあることを忘れてしまうのかもしれません。
「永遠の時」に後を託し、この世での仕事に中途で終止符を打たなければならない人もたくさんいたはずです。
目に見えるものでも、目には見えないものでも、待つことによって、生まれるものがある。
待つことの意味を知ることは、「ゆっくり生きる」ことの意味を知ることでもあるのです。
(幸せはゆっくりゆっくりやってくる!/グラフ社)
食の世界でもそうですが、本物の味を守り続けているところは「待つ」姿勢をとても大切にしていると思います。
2年も3年も食材を寝かせておいて、味が熟成するのを「待つ」・・・。
「待つ」とは時の流れにそっと寄り添うこと・・・。
また「待つ」とはその対象を信じ続けることでもあります。
信じ続けているとその対象に力が宿ります。
食の世界でいえば、だからこそ本物の味になるのでしょう。
本物の味とは職人と時間との共同芸術です。
しかし、成長促進剤や防腐剤などの添加物を使うということは食材の力を弱めてしまうことにつながります。
私たちも自分の人生において、このような愚を犯してはいないでしょうか。
何もかも速く出来ることが善とされているこの社会では「待つ」ことをしていては時代に取り残されてしまうと多くの人は言います。
しかし、待てない社会は人を早く腐らせ、本来の人間の力をさらに弱める方向へと導いてしまうことになるのではないでしょうか。
「待つこと」で生まれるもの・・・、これこそ大切にしたいものです。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。