日本一のお茶汲み
草柳大蔵氏(評論家)に学ぶビジネスを輝かせるためのヒント・・・
会社に入った。
お茶汲みをやらされた。
三月、半年、あいかわらずお茶汲み。
ぷうとふくれた。
不愉快でしょうがない。
あるとき、ふと、思った。
「よし、それならいっそのことお茶を汲ましたら日本一のOLになってやるわ」
お湯はどんな状態がよいか、グラグラ煮え立っているのをお茶にかけるか、グラッときたらすぐおろして使うべきか、お茶の葉はどれくらいの分量が必要か、お茶椀はあたためて出すべきか、そのときの温度はどれほどか。
お茶を汲むたびに条件をかえてみた。
その条件と結果をノ-トに書きこんでいった。
職場の上司や先輩に天ぷら、おすしをご馳走になることがある。
本職の淹れたお茶はうまい。
こういうとき、イヤ味にならないように、店の主人にそっと訊ねた。
「さあ、うまいんだからうまいんだよ」といわれるときもあったが、「なんといったって、お湯と温度とお茶の葉の分量の関係だよ」と、得意そうに教えてくれるところが多かった。
ノ-トが3冊になった。
いつの間にか、1年経っている。
後輩が入社してくる。
彼女はお茶汲みをやめなかった。
春が過ぎて筍が出まわって、それから梅雨に入ろうとする頃、外出先から帰った係長がお茶を一口飲んでいった。
「うまいな、やはりわが社のお茶がいちばんうまいな」
彼女、黙っていた。
その声につられるように、「そうなんだ、わが社のお茶がいちばんいいね」という声が立った。
「わが社」から「わが課」になり、「わが課」から「××さんが淹れてくれるお茶」になった。
また、1年経った。
彼女にとって、OL3年生の夏がすぎ、秋になった。
突如、辞令が出た。
「社長室付主任を命ず」
男の社員顔負けの昇進である。
「私、入社して3年ですけど、なにかのお間違いではないでしょうか」
人事部長に申し出ると、「いや、間違いではありませんよ。わが社の人事部の目はフシ穴ではないよ、君」と、肩をたたかれた。
「君は、社内で、というよりも東京じゅうでいちばんおいしいお茶を淹れられる人だ。
あんなに微妙なものをコントロ-ルできるのだから、仕事もできるだろうと周囲のものにもきいてみたら、やはりそうだという。
つまり、大切なことは、君がお茶を淹れることをマスタ-することによって、仕事の手順、要領を覚えたことだね」
(礼儀覚え書/グラフ社)
本当に仕事が出来る人というのは、自分がやりたいと思っていた仕事が出来なくても、この仕事も自分のキャリアにいずれ華を添えてくれる貴い仕事だと捉え、今与えられている仕事で最善を尽くすことの出来る人です。
会社などで配属先が、自分が想像していた仕事とかけはなれていた場合、多くの人はやる気を失い、「適当にやる」「ごまかしてやる」という選択をしてしまいがちです。
これは非常にもったいないことではないでしょうか。
どんな仕事であれ、与えられた仕事に徹することによって、自然と運は拓けてくるものです。
お茶汲みやコピ-取りといった仕事はどちらかというと地味で敬遠されがちだと思いますが、これらを単なる雑務と捉えるのではなく、道と捉えると、仕事に奥行きが出てきて、とても面白いものになります。
職業に貴賤はありません。
人間の見方によって、それが貴い仕事にもなるし、賤しい仕事にもなったりする・・・。
先程の女性のように、どのような仕事であれ、どうせやるなら業界一、日本一こそ目指していきたいものです。
そのような心意気で仕事に取り組んでいく時、きっと仕事の神様は微笑んで見守ってくれていることでしょう。
そしてさらに、大きなチャンスをも与えてくれることでしょう。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。